くるみ割り人形


あらすじ

第1幕

ドイツのシュタールバウム家のクリスマス・イヴ。広間にはクリスマス・ツリーが美しく飾り付けられ、招かれた人々が次々に到着する。

クララの名付け親のドロッセルマイヤーが、子供たちにプレゼントを持ってやってくる。人形劇が始まり、自動人形たちが踊りだすと、子供たちは大喜び。

ドロッセルマイヤーはクララにくるみ割り人形をプレゼントする。クララは人形を大切に抱きしめるが、それを見ていた兄のフリッツが人形を奪って壊してしまう。クララが嘆き悲しんでいると、ドロッセルマイヤーが優しく人形を直してくれる。

夜もふけて、来客たちは皆帰っていく。

 

真夜中の部屋。クララはくるみ割り人形のことが気になって寝つけない。時計が12時を指すと、不思議なことが起こり始める。

どこからかねずみが忍び込んできて、いつの間にか部屋に溢れている。クリスマス・ツリーがぐんぐん伸びていく。

くるみ割り人形が、兵隊人形たちを率いてねずみの軍隊と戦闘開始。最後にくるみ割り人形とねずみの王との一騎打ちとなる。くるみ割り人形に危険が迫ると、クララは思わずねずみの王にスリッパを投げつけ窮地を救う。ねずみの軍隊は王と共に退散する。クララの目の前に立っているのは、くるみ割り人形が変身した美しい王子であった。

 

気が付くと、そこは一面の銀世界。雪の精たちが二人を出迎え、優雅に舞う。クララは王子と一緒にお菓子の国へ向かう。

 

 

第2幕

お菓子の国。クララと王子はお菓子の国に到着。

二人のために、さまざまな踊りが繰り広げられる。チョコレート(スペインの踊り)、コーヒー(アラビアの踊り)、お茶(中国の踊り)、トレパック(ロシアの踊り)、あし笛(フランスの踊り)、キャンディー(ギゴーニュおばさん)。続いて、花のワルツがあり、最後に金平糖の精が王子とパ・ド・ドゥ*を踊る。

魅惑的な時はまたたく間に過ぎ、クララはお菓子の国に別れを告げる。夢から覚めたクララは、くるみ割り人形をしっかりと胸に抱きしめる。

*下に用語解説あり


みどころ

何と言ってもチャイコフスキーの魅惑的な音楽に導かれて進行する舞台が夢のように美しい。

第1幕、クリスマス・パーティのシーンが演劇的なのに対し、第2幕、お菓子の国のディヴェルティスマン(余興)は、多彩な舞踊シーンが楽しめる構成。

 

第1幕では、魔法を使うドロッセルマイヤーのアクションに注目したい。子供たちにプレゼントを贈ったり、コロンビーヌやアルルカンといった自動人形の踊りを見せて、皆を喜ばせてくれる。兵隊人形とねずみの軍隊の戦いのシーンは、勇ましく軽快な音楽とマッチし、気持ちまで弾むようだ。続く雪の世界は、一転して純白のロマンティックな舞台。真っ白なチュチュを身につけた雪の精たちの群舞が幻想的である。

 

第2幕のディヴェルティスマン(余興)は、まずソリストたちによる色彩豊かな各国の踊りが見もの。続く"花のワルツ"では、花が咲き誇ったような舞踊が優雅。そしてクライマックスとなるのが、金平糖の精と王子による*グラン・パ・ド・ドゥ。音楽も重厚かつ華麗な名曲で、金平糖の精の*ヴァリエーションは、*チェレスタの甘美な響きと共に大変親しまれている。

(出典:渡辺真弓(2012)『名作バレエ50鑑賞入門』世界文化社)

*下に用語解説あり


用語解説

・パ・ド・ドゥ

バレエ作品において男女2人の踊り手によって展開される踊りのこと。多くはバレエの中の最大の見せ場となっている。

 

・グラン・パ・ド・ドゥ

プティパが定式化した4曲構成のパ・ド・ドゥのこと。以下の順で進行することが決められている。

1.2人が入場するアントレ(Entrée)

2.男女2人で踊るアダージュ(Adage)

3.女性が1人で踊るヴァリエーション(Variation)

4.男女2人で踊るコーダ(Coda)

バレエの本領である華やかさ・優雅さを劇的に体現するもので、20世紀以降に作られたバレエ作品でもこの構成を踏襲しているものが多い。

 

・ヴァリエーション

踊り手がひとりで踊る演目のこと。

 

・チェレスタ

体鳴楽器に分類される鍵盤楽器の1つ。外見はオルガンのような形をしているが、内部には鉄琴に似た金属の板が並んでおり、それをハンマーで叩いて音を出す。