第1幕
ここはドイツのある王国。城の近くの庭園で、王子ジークフリートの20歳の誕生日を祝い、人々が踊っている。そこへ王妃が入ってきて、息子である王子に対し、明日の舞踏会で花嫁を選ぶように促す。青春時代に別れを告げることを憂える王子。友人たちの踊りに続いて、乾杯の踊りで祝宴は締めくくられる。
遠くに白鳥の群れが飛んでいくのを見た王子は、狩りに出かけようと、弓を手に湖へ向かう。
第2幕
森の中の湖のほとり。悪魔ロットバルトが姿を現す。
湖に来た王子は、一羽の白鳥を見つけ、矢を射ようとするが、美しい王女の姿を見て驚く。王女は名をオデットといい、悪魔の魔法によって白鳥の姿に変えられ、人間の姿に戻れるのは夜の間だけという不幸な身の上について語る。
永遠の愛こそがオデットを魔法から救うと知った王子はオデットに愛を誓うが、再び悪魔が現れ、オデットを連れ去る。
王子は、愛するオデットを救おうと固く決意する。
第3幕
城の大広間。舞踏会には各国から花嫁候補の令嬢たちが招かれ、宴たけなわ。そこへファンファーレが鳴り響き、悪魔ロットバルトに連れられて娘のオディールがやってくる。
王子はその魅力に惹かれ、黒鳥オディールをオデットと勘違いし花嫁に選んでしまう。城の外に、王子の裏切りを嘆き悲しむオデットの姿が見える。
悪魔の計略にはまったことに気付いた王子は、絶望し、オデットの後を追う。
第4幕
再び湖のほとり。傷心のオデットが仲間のもとに戻ってくる。
王子が許しを乞いにやってくるが、もはやどうすることもできない。嵐がやってきて、オデットは湖に身を投げ、王子もその後を追う。
真実の愛の力によって悪魔は滅び、二人はあの世で永遠に結ばれる。
(この結末は、プティパ/イワーノフ版に準拠している。オデットと王子が波にのまれて消える悲劇的な結末もあれば、王子が悪魔を打ち倒し、主役二人が結ばれるハッピーエンドもある)
さまざまな改訂版が生まれてきた中で画期的なのが、ブルメイステル版。
プロローグとエピローグを設け、冒頭で王女オデットがロットバルトの魔法によって白鳥の姿に変えられる過程を示し、最後に魔法から解き放たれたオデットが、人間の姿に戻って王子と結ばれるという結末にし、ドラマに一貫性をもたせた点が特徴である。
白鳥の湖の見どころと言えば、やはり第2幕の湖の場面。オデットと白鳥たちによる「*バレエ・ブラン」の優美な世界が堪能できる。まず冒頭、オデットが登場する瞬間に注目したい。神秘的な音楽と共に、舞台の袖から優美な姿を見せると、王子ならずとも、思わず胸がときめく。
二人の出会いに続いて、永遠の愛を誓う*アダージオは詩情が溢れ、全編の白眉。
小さな4羽の白鳥の愛らしい踊りや、大きな白鳥のダイナミックな踊り、そして一糸乱れぬ白鳥の整然とした群舞もまた見逃せない。
第3幕最大の見どころは、黒鳥の*グラン・パ・ド・ドゥ。ここでは、オディールの32回の*グラン・フェッテが最高難度のテクニックとして、*プリマの技量の見せどころである。王子の気品あふれる踊りにも見応えがある。
黒鳥の登場に先立って踊られる各国の王女たちの踊りや、スペイン、ハンガリー、イタリア、ポーランド等の民族舞踊も目を楽しませる。
第1幕で王子の友人たちによって踊られる*パ・ド・トロワは、準主役級のソリストが技を競い合い、見応え十分である。
ロシアに多く見られる道化が登場する版では、第1幕や第3幕で回転の大技が披露され、拍手をさらう。
(出典:渡辺真弓(2012)『名作バレエ50鑑賞入門』世界文化社)
*下に用語解説あり
・バレエ・ブラン
直訳すると「白いバレエ」という意味。古典バレエにおいて女性ダンサーたちが白いコスチュームを着用して踊る作品及びその場面を指す用語。
・アダージオ
遅い、ゆっくりとした楽章・楽曲のこと。
・パ・ド・ドゥ
バレエ作品において男女2人の踊り手によって展開される踊りのこと。多くはバレエの中で最大の見せ場となっている。
・グラン・パ・ド・ドゥ
プティパが定式化した4曲構成のパ・ド・ドゥのこと。以下の順で進行することが決められている。
1.2人が入場するアントレ(Entrée)
2.男女2人で踊るアダージュ(Adage)
3.女性が1人で踊るヴァリエーション(Variation)
4.男女2人で踊るコーダ(Coda)
バレエの本領である華やかさ・優雅さを劇的に体現するもので、20世紀以降に作られたバレエ作品でもこの構成を踏襲しているものが多い。
・グラン・フェッテ
片足はつま先で立ち、反対の足をムチのように蹴りだして旋回する技法。フェッテは「鞭で打つ」の意。
・プリマ
バレエ団における女性バレエダンサーの最高位のこと。
・パ・ド・トロワ
3人での踊りのこと。